もう2ヶ月ほど前のことですが、住宅遺産トラスト関西や竹中大工道具館の方がお越しになられ、我が家に所蔵されていた書簡の読み解き会を開催しました。以前、住宅遺産トラスト関西の方が来られた際、設計者藤井厚二が、施主である祖父に届けた手紙類一式を、全て写真に収めてもらいました。それだけでも大変なことなのに、その後、写真に書かれている普通なかなか解読できない達筆な文字をコツコツとテキスト化し、それらを要約し、時系列に並び替えて、ストーリーとして仕上げてくださいました。今回、その一端をご紹介します。例えば、ある書簡の原文は以下のような内容でした。
「先般お手紙で主人寝室を2階に移し階下寝室を畳敷として主婦室に変更する様子とのお話でございますので再考の結果案を得ましたのでお送りいたします。(中略)。それで第4案ができましたので、この案の方が第3案よりは良いかと思いますが、何れかご決定願います。これを今一歩改善進歩させば居間と夫人室とを一間として即ち居間を十六畳にして腰掛の部分を十畳、座る部分を六畳としてこれを一尺一寸乃至一尺2寸高くして、腰掛けた人と座る人と目の高さが同じになる様にしておけば非常に便利でございます。これは小生が数年来主張する処でございまして最初の案のように全部腰掛けは非常によいことでございますが現在の家庭は行はれぬ場合が多いので一般の家庭では一部を畳とすることが必要なので3年前の拙宅で初めて造った時は笑った人も多くございましたが、実際造ってみると便利な5畳になっております。」
これは、私の祖父が、主人寝室2階に移し、階下寝室を畳敷として主婦室に変更するという急遽の無茶ぶりをした際に、藤井厚二は、配置などで4案ほどの選択肢を提示した上で、自身のこだわりである小上がり(畳間を板間より30数cmほど高くする)は譲れないといった文書と読み取れます。それ以外にも、祖父が雨戸設置を望んだ際には紙障子をやめてカーテンの設置を勧めたり、電気暖房を望んだ際は専門家に相談して安全性を確認したりなど、自分のスタイルは貫きながら、施主の要望を最大限くみ取りつつ、その一歩上をいくような提案をしていたような内容のものが多くありました。
おそらく私の祖父からの要望は、とても厳しく変わっていたと思いますが、巧みにかわしながら形に仕上げていく藤井厚二との協働作業のおかげで、我が家は完成したのだと思います。このようなことを裏付ける材料を読み解いていただいた住宅遺産トラスト関西や竹中大工道具館の方には本当に感謝する次第で、是非、論文化して、学術界にも一石を投じていただけたらと思っています。
Katsuji
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